「寮長、僕らが入学する少し前の緑ヶ丘って不良の人がいっぱいいたと思うんですけど……」
「うん?いたねー。番長さんとかいたよ。あと文化祭に他校生が乗り込んできたりね!」
寮長、すなわち渋谷亜希が軽く言ってのける衝撃の事実に、一年生が一人驚きの声を漏らす。
「あ、でも今はそんなことないんだよ!?って、それは見たら分かるか」
「……寮長、何だか嬉しそうですね」
一年生も釣られて笑顔になる。
「そうかな?やっぱり学校が平和だと良いよね。俺が知るヤンキーさんには良い人が多かったけど、こんなに学校中が賑わったりはしてなかったから」
「じゃあ、この短期間でこれだけ不良の人が少なくなったのって何でですか?」
「……俺が入学した頃には既に少しずつ不良の人の数は減り始めてたんだけど、その裏には学校を良くするために奮闘した人達がいたんだよ。風紀部って言ってね、不良撲滅を掲げていたというか、そんな感じかな」
少しだけ濁した説明になってしまう。先輩たちも佐伯先生も、大々的に知られたいわけではないだろうから。活動の根源は、生徒たちに聞かせることではないだろうから。そう考えながら渋谷は話を続ける。
「それで、俺もその部に所属してたんだよ」
驚きの表情が隠せない様子の後輩たちが口々に訊ねる。じゃあ生徒会に入ったのは最近なんですか?風紀部の活動内容ってどんなものなんですか?風紀部はその後どうなったんですか?
彼らは決して脚光を浴びたわけではなかった。大胆な動きを見せながらも、その実態を知る生徒は部員以外では当時の生徒会役員くらいである。眩しかった先輩たちへの興味を示す後輩に心をくすぐられた渋谷は、影のヒーローの活躍を伝えられる限り後輩たちに向けて語った。アルバムを見返すように、一つ一つの思い出を慈しみながら。
数年後。
渋谷はとうに卒業し、不良で溢れかえった緑ヶ丘学園を知る生徒は一人もいなくなった頃。
「そういえば、私たちが小さかった頃ってこの学校すごく荒れてたらしいねー」
「今からじゃ想像もつかないね」
「なんか学校を建て直した部があったらしいよ。確か名前は……」