野崎たちも無事目的を果たし、式も終了した。千代は野崎の両親に会うには心の準備が間に合わないとかで、合流直前で一度手洗いに逃げ込んだらしい。
三人が野崎宅で原稿を進めていると、予想通りにチャイムが鳴った。野崎がドアを開ける。音の主はもちろん真由だ。
「お邪魔します」
よく来たな、と野崎が声をかけ、いつもの机に案内する。もちろん千代と御子柴もそこに座っており、元気よく真由に挨拶する。野崎は準備していた菓子を差し出し、お茶を淹れ始めた。真由は目の前でカップに注がれるお湯を眺めている。すると御子柴が真由に訊ねる。
「制服ってことは、式終わってそのまま来たのか?」
「そうですね、家よりこっちの方が近いので」
まあそりゃそうか、と御子柴は頷き、納得した様子を見せた。
真由はカップに手を伸ばす前に、思い出したように学生ズボンのポケットをあさる。取り出したのは先程野崎が両親に渡したカメラだった。式が終わって写真も撮り終えたので、野崎に返すように言われたのだという。
せっかくなので写真を見ないかという話になり、野崎がカメラを起動する。一同は野崎のそばに小さく固まって集まり、御子柴、千代、真由の三人がそれぞれ画面を覗き込む。一番新しい写真には両親と真由がうつっていて、そこから式全体の写真や式中の真由を撮った写真が続いた。画面の中の真由は顔こそ見えないものの、数枚を続けて見ると真由の体がぐらぐらと揺れていたことが見て取れる。
ボタンを押し進めていると、真由と野崎の写真が表示された。さっき学校で会ったときに撮ったものなので、これで入学式の写真は終わりだと分かる。
「親御さん、真由くんのこといっぱい撮ってたんだね!」
「家族写真も数枚撮ってあったな」
「結局寝てたところもしっかり撮られてたしな」
千代、野崎、御子柴の言葉に真由が何度も「そうですね」と同じように相槌を打つ。駄弁っているうちに三人も満足したのか、次第に全員作業に戻り始める。カップのお湯はもうぬるくなっていた。
作業に戻って数分が経った。真由は横になったり、三人の作業を眺めたり、気ままに過ごしている。その中で、御子柴の筆の進みがいつもより遅いことに気が付いた。
「実琴さん、どうしたんですか」
「いや、さっきの写真思い出してたんだよ」
「写真ですか」
「おー。俺は真由の兄貴分なんて言っちゃいるけど、ああいう写真で隣に立つわけじゃねえんだよなーと思って」
自分の口から出た言葉に御子柴がハッとする。
「いや、何でもねえ。せっかくの家族写真に水差して悪ぃな!」
そう言って作業に戻った。