新しい姿を切り取ろう - 1/4

見渡す限りに青空が広がっている。雲ひとつない、と言うと語弊はあるものの、小さく浮かぶ白い雲が青によく映える。そよ風は優しく木々を撫で、春色の花弁をさらっていく。その一片一片が喜びに満ちたようにふわりと舞い踊り、祝福を告げる。まさに新たな生活の始まりを飾るに相応しい日だ。
「あ、野崎くーん!」
大きく手を振って駆け寄りながら、千代が野崎に呼びかける。始業式に出席した彼女たちは、初めてのホームルームを終えたばかりだ。
見慣れたはずの校舎の、慣れない教室から踏み出してどこか新鮮な気持ちを抱いているのは、どの生徒も同じらしい。廊下には前のクラスの顔馴染みで集まったであろうグループが多く見られ、自己紹介緊張した、クラス離れちゃったね、今年もよろしくね、なんて言葉が飛び交っている。
「ついに三年生だよ、受験生だよ野崎くん!」
「ああ、今年もよろしくな、佐倉」
千代は満面の笑みで強く頷く。
「入学式、午後からだね。楽しみだね!」
「佐倉、俺たち在校生は入学式には参加出来ないぞ」
「そ、それは知ってるよ!……でも、新入生に知り合いがいると思うと、自分のことじゃなくても楽しみになっちゃうなあ。野崎くんも楽しみだったりしない?」
「ああ、まあ、そうだなあ。入学式の途中で居眠りしないかどうかとか、心配ではあるな」
もうちょっと信じてあげようよ、と千代は苦笑する。彼女がふと時計に目を向けると、針は正午を指そうとしていた。
「あ、もうこんな時間なんだね。そろそろみこりんと合流しよう!」
「ああ」
そう言って二人は御子柴のクラスへと向かった。