「そういやお前の昔の夢、一個叶ったな」
突然言われてもピンと来るはずがなかった。
「私の夢?何それ、そんなのあったの?」
「覚えてねーならいい」
「えー、教えてよ。そこまで言われたら気になるじゃん」
そうせがむと、鷹臣くんは気だるそうに単語を一つだけ発した。
「うさぎ」
「うさぎ?」
「お前昔、大きくなったらうさぎさんになりたいって言ってただろ」
「え、そんなこと言ってたっけ!?全然覚えてないよ」
そんなに可愛いことを言っていたのか私は。この男に聞かれたらずっとからかわれるに決まっているのに!純粋とも呼ぶべき幼さゆえの浅はかさへの後悔は然ることながら、どこか気恥ずかしさにも襲われた。うさぎさん、なんて言葉は今の私の口からは絶対に出ない。
「そんなに照れるなよ、メルヘンチックで可愛らしいと思うぞ俺は。なあまふゆちゃん?」
「うるさい!」
そうやってニヤニヤしながら私をからかうんだ。だから嫌なんだこの男が!!
「……でもなんでそれが叶ったことになるの?」
「急に冷静になったな」
「だって私うさぎじゃないじゃん」
「いや、お前ウサちゃんマンやってんじゃねえか」
意外なものの名前を出されたものだから拍子抜けしてしまった。
「何か違わない?それ」
「似たようなもんだろ」
「メルヘンのかけらもないでしょウサちゃんマンには……。ケンカしてるじゃん。バイオレンスだよ」
「何言ってんだ、ウサちゃんマンに憧れてる奴もいるだろ」
「まあそうだけどさ」
そうは言っても、ウサちゃんマンに憧れるなんて早坂くんくらいなもんだけど。
「じゃあメルヘンだ。夢があるからな」
「無理やりだなあ」
よく分からないけど、鷹臣くんの中では「うさぎさんになりたい」という私の夢は叶ったことになっているらしい。どこか腑に落ちないけど、まあ、それでもいいか。
蛇足
「ちなみにもう一個の夢の方はどうなんだ?」
「もう一個って?」
まふゆちゃんは他にも夢を語っていたらしい。どうか軽い怪我で済みますように。
「”たかおみくんのおよめさん”」
致命傷だ。
「ならないよ!!ていうか私それ言ってないんでしょ!?」
「さあ?」
「この前嘘だって言ってたじゃん!!」
ほら、やっぱりこの男はすぐに私を弄ぶ。
その夢の真偽も鷹臣くんが今それを持ち出してきた真意も分からないけど、この男が私を困らせて楽しむ魔王であることだけは確かだった。