カムバック・トゥ・ザ・テーブル

鷹臣くんが無事家に戻ってきた。お隣から物音がする生活っていつぶりだろう。ふらっと鷹臣くんの部屋に立ち寄ったり、反対に鷹臣くんが私の部屋にやって来たり。久しぶりに今までの生活が返ってきたって感じだ。今月は仕送りの残額が既にピンチなので、今日も鷹臣くんの部屋に押しかけて晩ご飯にありつくことにした。

「なんかさ、今日のご飯ちょっと変じゃない?」
「お前人んちでメシ食っときながらよくそんなこと言えたな」
鷹臣くんからゲンコツが飛ぶ。痛い痛い!!

「いや不味いとかじゃなくてさ、いつもと違うなって思って。前に食べたお姉さんの料理はもっと『料理なんて手慣れてます!』って感じだったのが今日のは初心者っぽいっていうか。野菜の大きさとかバラバラだし」
「ふーん」
「何、どうしたの?」
「いや、普段からもっと無心で食ってんのかと思ってたから意外だなと思っただけだ」

思わぬ発言に眉を顰める。私が綺麗なお姉さんの手料理を無心で食べるはずがないじゃないか!胃袋を掴んだお姉さんに思いを馳せながら一口ひとくちを味わって食べるに決まっている。
熱のこもった調子でそう言うと、鷹臣くんからは露骨な嫌悪が見てとれた。

「……で、今回も胃袋は掴まれたのか?」
「そうだね、料理初心者のお姉さんが慣れない手つきで頑張って作ってるところとか想像したらグッとくる」
「真顔でガッツポーズまでして言うな変態め」
「自分で訊いたんじゃん!」
「妄想は置いといて味はどうなんだよ」
「味?普通に美味しいよ。なんか今日やけに問いただしてくるね」

目の前の男はニヤリと笑う。何度も見てきたから分かる、これは何か企んでるときの顔だ。私はいったい何をされるのだろう。想像したら悪寒が走った。
「なあ真冬。お前が今まで食ってきた『お姉さんのご飯』は朝メシじゃなかったか?」
「……?そうだね」
「今食ってるのは晩メシだよな」
「そうだね」
「まだ気付かねえか」
 訝しそうな、呆れたような表情で言葉を続ける。それでいて依然何か企んでいることははっきりと分かるのだから何だか気味が悪い。

「じゃあ特別にもう一つヒントをやろう。お前、最近俺の部屋から誰か出てくるの見たか?」
「誰か出てくるも何もまず鷹臣くんが家にいなかったじゃん」
「俺が戻ってきた後の話だ」
「……そういえば見てないね。え、あれ?」
おかしい。じゃあこのご飯は誰が作ったの?出前?いや出前ならお皿はこんなに家庭的じゃないはず。柿本さんだったら野菜の大きさはもっと揃ってるはず。そもそも出前も柿本さんも出入りしてたら気付きそうなもんだ。他にこの部屋に出入りしてる人って誰だろう。この部屋に出入りしてても気付かなさそうな人。それ以外なら、出入りに気付いてもわざわざ気に留めない人?それって一人しかいないんじゃ……。

恐る恐る顔を上げると、胡散臭い笑みをした鷹臣くんの顔が目の前にあった。
「気付いたか?」
……どうやらこの料理は鷹臣くんが作ったものらしい。今日一番のしたり顔で問うその男を見て「美味しい」などと言ったことを少し後悔した。でも美味しかったものは美味しかったのだから仕方ない。無性に悔しいけど!
見抜けずベタ褒めしたからか、妙な悔しさと強烈な照れくささに襲われた。「美味しかったです、ごちそうさまでした」を言うときはつい鷹臣くんから目を逸らしてしまった。鷹臣くんの「どういたしまして」はやはりしたり顔で、何だか揶揄われている気分だった。

「……そういえば鷹臣くん、なんで急に料理するようになったの?」
「誰か作らねえとお前ちゃんとした飯食わねえだろ」
意外な答えに顔が茹でダコみたいに赤くなった。こんなの魔王が気付いたらまた揶揄われるじゃん。気付かせたりするもんか、絶対!!